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サイバー攻撃で停止する港湾物流 - 海運業界が直面する新たな脅威と対策

海運業界を狙うサイバー攻撃の実態

近年、海運業界を標的としたサイバー攻撃が増加しています。2022年12月にはポルトガルのリスボン港がランサムウェア攻撃を受け、財務報告書や監査資料、予算、契約書、貨物情報、船舶ログ、乗組員の詳細、顧客の個人情報など、重要なデータが盗まれました。攻撃グループは150万ドルの身代金を要求し、支払いがなければ情報を公開すると脅迫しました。

また、2023年1月にはノルウェーの海事分類会社DNVが開発した船舶管理ソフトウェア「ShipManager」がサイバー攻撃を受けました。このシステムは70社が所有する1000隻以上の船舶に導入されており、乗組員のスケジューリングや給与支払い、調達の自動化、港湾コンプライアンスの管理など、様々な機能を提供していました。

これらの事例は、海運業界のデジタル化が進む中で、サイバーセキュリティの脆弱性が増大していることを示しています。船舶管理システムや港湾コミュニティシステムの導入により、業務効率は向上しましたが、同時に攻撃者にとっての侵入口も増えてしまったのです。

港湾施設を狙う攻撃の波及効果

港湾施設へのサイバー攻撃は、単に一つの港の機能を停止させるだけでなく、広範囲にわたる影響を及ぼす可能性があります。港湾には多数の関係者が存在し、それぞれがネットワークでつながっているため、一箇所の脆弱性が攻撃者の侵入口となり、他のシステムにも被害が広がる恐れがあります。

例えば、船舶管理システムを経由して感染した文書が港湾当局に送信されれば、港湾のネットワークだけでなく、規制当局のシステムまで感染が広がる可能性があります。米国の場合、多くの港湾文書は沿岸警備隊にメールで送信されるため、悪意のあるファイルが沿岸警備隊のネットワーク全体に拡散するリスクがあります。

また、港湾コミュニティシステムを狙った攻撃は、経済スパイ活動の手段として利用される可能性もあります。中国が提供する無料の港湾コミュニティシステム「LOGINK」は、グローバルなサプライチェーンの可視化を可能にしますが、同時に中国政府が機密データにアクセスできる懸念も指摘されています。

船舶を「武器化」する脅威

サイバー攻撃は港湾施設だけでなく、船舶自体を標的にすることもあります。船舶の制御システムをハッキングすることで、攻撃者は船を「武器」として利用し、重要インフラや水路を妨害する可能性があります。

歴史的に見ると、水路を封鎖するために意図的に船舶を沈没させる「ブロックシップ」戦術が存在しました。しかし、現代では商船の制御システムをハッキングすることで、より低コストで同様の効果を得ることができます。

特に懸念されるのは、自律型船舶の登場です。乗組員が少なくなることで、異常を発見できる「人間の目」が減少し、サイバー攻撃のリスクが高まる可能性があります。また、人工知能の進化により、マルウェアがより高度化・複雑化することも予想されます。

海運業界のサイバーセキュリティ対策

これらの脅威に対抗するため、海運業界は以下のような対策を講じる必要があります:

  1. セキュリティ意識の向上:乗組員や港湾スタッフに対して、サイバーセキュリティの重要性を教育し、不審なメールや添付ファイルに注意を払うよう徹底する。

  2. システムの脆弱性診断:定期的に船舶管理システムや港湾コミュニティシステムの脆弱性をチェックし、必要なパッチを適用する。

  3. 多層防御の導入:ファイアウォール、侵入検知システム、アンチウイルスソフトなど、複数の防御層を設けることで、攻撃のリスクを軽減する。

  4. 暗号化の徹底:重要なデータや通信を暗号化し、情報漏洩のリスクを最小限に抑える。

  5. インシデント対応計画の策定:サイバー攻撃が発生した際の対応手順を事前に定め、定期的に訓練を実施する。

  6. 規制当局との連携:政府機関や業界団体と協力し、サイバーセキュリティ基準の策定や情報共有を進める。

  7. AI技術の活用:人工知能を用いた異常検知システムを導入し、早期にサイバー攻撃の兆候を発見する。

  8. バックアップと復旧計画:重要データの定期的なバックアップを行い、攻撃を受けた際の迅速な復旧体制を整える。

海運業界のデジタル化は今後も進展し、業務の効率化が進んでいくでしょう。しかし、便利さにはリスクがつきものです。便利な面だけにとらわれずに、リスクも考慮していかなければ攻撃者の格好の的になってしまいます。まずは、経営層と従業員でサイバーセキュリティを意識することから始めることをおすすめします。

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