- 製造業サプライチェーンのサイバーリスク:深刻な現状
- サプライチェーンのサイバーリスク管理:課題と重要性
- サードパーティーリスク管理(TPRM)の重要性と限界
- 効果的なサプライチェーンリスク管理の実現に向けて
製造業サプライチェーンのサイバーリスク:深刻な現状
近年、製造業のサプライチェーンにおけるサイバーリスク管理の重要性が急速に高まっています。しかし、その現状は決して楽観視できるものではありません。日経225企業を対象とした最新の調査結果によると、製造業は他の業種と比較して、サイバー攻撃に対して脆弱な状態にあることが明らかになりました。
特に注目すべき点は以下の通りです:
- 日経225企業の30%が平均的な評価「C」を受け、7%が「D」または「F」という低評価でした。
- ドメインハックの被害を受けた10社のうち、9社が製造業でした。
- 製造業の83%がサードパーティーに起因する情報漏えいの影響を受けたドメインを所有しています。
- さらに85%がフォースパーティに起因した侵害を経験しています。
これらの数字は、製造業のサプライチェーンにおけるセキュリティリスクが極めて深刻であることを示しています。
サプライチェーンのサイバーリスク管理:課題と重要性
製造業のサプライチェーンにおけるサイバーリスク管理には、いくつかの重大な課題があります。
パッチ管理の遅れ:SecurityScorecardの調査によると、重要製造業のパッチング・ケイデンス(セキュリティパッチの適用)の評価が88点(B)から76点(C)に低下しています。これは、脆弱性に対するパッチ適用の頻度の高まりにリスク管理が追いついていないことを示唆しています。
脆弱性の増加:2022年には、深刻度の高い脆弱性が前年比で38%増加しました。重要な製造業組織の76%が、ランサムウェアグループの標的となり得る高/中重度のCVE(共通脆弱性識別子)を保有しています。
ランサムウェア攻撃の脅威:ランサムウェアグループによる攻撃が増加しています。例えば、「Conti」グループによるデルタ電子への攻撃では、1500台以上のサーバと1万2000台以上のPCが暗号化され、公式サイトがオフラインになる被害が発生しました。
これらの課題に対処するためには、サードパーティーベンダーを含むビジネスに関係する全企業のセキュリティ体制を把握することが重要です。
サードパーティーリスク管理(TPRM)の重要性と限界
サードパーティーリスク管理(TPRM:Third-Party Risk Management)は、組織のデータやシステム、業務アプリにアクセスするサードパーティーベンダーやサプライヤーに関連するリスクを特定、評価し、軽減するためのプロセスです。TPRMは以下の理由から非常に重要です:
- データ侵害やコンプライアンス違反の防止
- ビジネスの中断やブランド毀損のリスク軽減
- サプライチェーン全体の脅威への先回り対策
しかし、既存のTPRMプログラムには以下のような限界があります:
- サプライチェーンへの依存度の拡大:外部ベンダーへの依存が高まり、サプライチェーン全体でのサイバーリスクが増大しています。
- 一時の評価に依存:年に一度のアンケート調査などでは、新たな脅威や脆弱性を正確に把握しきれません。
- 限られたリソースと能力:予算や人員の制約により、小規模なサプライヤーやサービスプロバイダーが見落とされがちです。
- サイバーセキュリティの専門知識の欠如:日々変化するサイバーリスクに対応するには、セキュリティの専門家との緊密な連携が必要です。
効果的なサプライチェーンリスク管理の実現に向けて
製造業のサプライチェーンにおけるサイバーリスク管理を強化するためには、以下の対策が重要です:
継続的なモニタリング:一時点の評価ではなく、サプライチェーン上のベンダー各社の脆弱性を常時把握する仕組みを構築します。
重要ポイントの特定:侵害によって重大な混乱が生じる可能性がある重要なポイントを正確に特定し、優先的に対策を講じます。
定量的評価の実施:取引先や関連組織のセキュリティを定量的に評価し、脆弱性を特定することで、リスクの可視化や迅速な対応を可能にします。
専門知識の強化:サイバーセキュリティの専門家との連携を強化し、最新の脅威や対策に関する知識を常に更新します。
自動化ツールの活用:手作業によるリスク評価プロセスを自動化し、より多くのベンダーを効率的に評価できるようにします。
セキュリティ意識の向上:サプライチェーン全体でセキュリティ意識を高めるための教育プログラムを実施します。
製造業のサプライチェーンにおけるサイバーリスク管理は、もはや避けて通れない重要課題です。従来のTPRMの限界を認識し、より包括的かつ効果的なアプローチを採用することで、サイバー攻撃に対する耐性を高め、ビジネスの継続性を確保することができるでしょう。 サプライチェーンは一箇所を攻撃されると、連鎖して全体が止まってしまいます。サイバー攻撃はがん細胞と同じで、見えないからこそ脅威なのです。 今の時代は、すべての職種でサイバーセキュリティが求められています。一気に変えようとするのではなく、少しずつ改善していくのがいいでしょう。