ランサムウェア:10年連続で最大の脅威
情報処理推進機構(IPA)が発表した2025年版「情報セキュリティ10大脅威」において、組織部門のトップを10年連続で占めたのが「ランサムウェアによる被害」です。この結果は、ランサムウェアが企業や組織にとって依然として最も深刻な脅威であることを示しています。
ランサムウェアとは、コンピューターシステムやデータを「人質」にとり、「身代金」を要求するマルウェア(悪意のあるソフトウェア)の一種です。多くの場合、ファイルを暗号化して使用不能にし、復号のための「身代金」を要求します。
10年という長期にわたってトップの座を維持し続けている理由は、ランサムウェアが常に進化し続けていることにあります。攻撃者たちは、新しい技術や戦略を取り入れ、より効果的で破壊的な攻撃を仕掛けてくるのです。
ランサムウェア攻撃手法の変遷
ランサムウェアの攻撃手法は、この10年で大きく変化しました。
ばらまき型:初期のランサムウェアは、メールなどを通じて不特定多数に送りつける「ばらまき型」が主流でした。これは、いわば釣りのような手法で、多くの人に仕掛けを送り、そのうちの数人が引っかかることを期待するものでした。
侵入型:約5年前から、攻撃者が直接ネットワークに侵入し、内部から情報システムを攻撃する「侵入型」が増加しています。これは、狙った獲物を慎重に追い詰めていくような戦略です。攻撃者は、組織のネットワークに長期間潜伏し、最も効果的なタイミングで攻撃を仕掛けます。
二重脅迫型:近年注目を集めているのが、データを暗号化するだけでなく、盗み取ったデータを「公開する」と脅す「二重脅迫型」です。これは、被害者に二重のプレッシャーをかけ、身代金支払いの可能性を高める狙いがあります。
ノーウェアランサム:最新の手法として、実際にはデータを暗号化せずに「データを盗んだ」と脅す「ノーウェアランサム」が登場しています。これは、攻撃者にとってマルウェア開発のコストと手間を省けるため、効率的な攻撃方法となっています。
ランサムウェアの進化が意味するもの
ランサムウェアの進化は、サイバーセキュリティの世界で起こっている「いたちごっこ」を如実に表しています。防御側が新しい対策を講じれば、攻撃側はそれを回避する新たな手法を編み出します。
この進化は、以下のような影響をもたらしています:
被害の深刻化:二重脅迫型やノーウェアランサムの登場により、組織はデータの暗号化だけでなく、機密情報の流出というリスクにも直面するようになりました。
攻撃の高度化:侵入型の増加は、攻撃者がより高度な技術を駆使し、組織のネットワークを深く理解した上で攻撃を仕掛けていることを意味します。
防御の困難化:攻撃手法の多様化により、単一の対策では十分な防御ができなくなっています。組織は、多層的で柔軟な防御戦略を構築する必要に迫られています。
リスクの増大:ノーウェアランサムの出現は、実際の被害がなくても脅迫を受ける可能性があることを示しており、組織のリスク管理をより複雑にしています。
効果的な対策と今後の展望
ランサムウェアの脅威に対して、組織ができる効果的な対策には以下のようなものがあります:
多層防御の実施:ファイアウォール、アンチウイルスソフト、侵入検知システムなど、複数の防御層を設けることが重要です。
定期的なバックアップ:重要なデータを定期的にバックアップし、オフラインで保管することで、被害を最小限に抑えることができます。
従業員教育:ソーシャルエンジニアリングなどの手法に対する意識を高め、不審なメールやリンクに注意するよう従業員を教育することが大切です。
パッチ管理:システムやソフトウェアを常に最新の状態に保ち、既知の脆弱性を塞ぐことが重要です。
インシデント対応計画の策定:攻撃を受けた場合の対応手順を事前に決めておくことで、被害を最小限に抑えることができます。
今後、人工知能(AI)や機械学習の発展により、ランサムウェアはさらに高度化する可能性があります。一方で、これらの技術は防御側にも活用できるため、AIを活用したセキュリティソリューションの開発と導入が進むことが予想されます。
ランサムウェアの脅威は今後も続くでしょうが、適切な対策と継続的な警戒があれば、その被害を最小限に抑えることは可能です。AIの活用法や導入の仕方など不明点があれば、専門家や企業に相談するのも手でしょう。