サイバーセキュリティナビ

最新のサイバーセキュリティニュースサイトです。日本サイバーセキュリティ株式会社がお届けします。

【事例解説】ランサムウェア攻撃の実態と対策:別大興産のケースから学ぶセキュリティ管理の重要性

近年、企業や自治体を標的としたランサムウェア攻撃が増加の一途をたどっています。2024年10月に発生した大分市の指定管理者である、株式会社別大興産へのランサムウェア攻撃は、セキュリティ対策の重要性を改めて認識させる事例となりました。本記事では、この事例を詳しく分析し、同様の被害を防ぐための対策について考察します。

ランサムウェア攻撃の概要と被害状況

2024年10月、大分市の市営住宅指定管理者である株式会社別大興産がランサムウェア攻撃を受けました。この攻撃により、同社のサーバおよび周辺機器が使用不能となり、端末スクリーンには「不正アクセスによってデータを使用できなくしたこと」「個人情報を含むデータを複製したこと」「金銭を支払わなければデータを第三者に売却する」という脅迫メッセージが表示されました。

このような攻撃手法は、ランサムウェアの典型的なパターンです。攻撃者はまず組織のシステムに侵入し、重要なデータを暗号化して使用不能にします。同時に、データの複製を作成して外部に持ち出し、「二重恐喝」と呼ばれる戦術を用います。つまり、「データの復号化のための身代金」と「データを公開しないための身代金」という二重の要求を行うのです。

別大興産の場合、特に懸念されたのは市営住宅の入居者に関する個人情報の漏えいでした。公共サービスに関わる組織がこうした攻撃を受けると、多くの市民のプライバシーが危険にさらされる可能性があります。

原因分析:セキュリティ機器の設定不備

この事件で注目すべき点は、攻撃の原因が「委託事業者が納入したセキュリティ機器の設定不備」だったことです。これは現代のサイバーセキュリティにおける重要な教訓を示しています。

セキュリティ対策は「導入」だけでは不十分です。適切な「設定」と「運用」が伴わなければ、高価なセキュリティ機器を導入しても効果は限定的です。実際、多くのセキュリティインシデントは、技術的な脆弱性よりも「人的要因」や「設定ミス」に起因しています。

私の経験からも、セキュリティ機器の初期設定のままで運用されているケースや、定期的な設定見直しが行われていないケースが少なくありません。特に、以下のような設定不備が攻撃の糸口になりやすいです:

  1. デフォルトパスワードの未変更
  2. 不要なサービスやポートの開放
  3. アクセス制御リストの不適切な設定
  4. ログ監視の未実施
  5. セキュリティアップデートの未適用

こうした基本的な設定ミスが、高度なセキュリティ対策をすり抜ける「抜け穴」となってしまうのです。

ダークウェブ調査と情報漏えいの確認

別大興産では、攻撃後にダークウェブ調査を実施し、個人情報の持ち出しの証跡は確認できなかったと報告しています。これは一見、良いニュースのように思えますが、セキュリティの専門家として注意点を挙げておきたいと思います。

ダークウェブ調査には限界があります。すべての闇市場やフォーラムを網羅することは困難であり、攻撃者が情報を公開するタイミングを遅らせる場合もあります。また、情報が売買される前の「非公開取引」の段階では発見が難しいこともあります。

つまり、「ダークウェブで発見されなかった」ことが「漏えいしていない」ことの確実な証明にはならないのです。そのため、別大興産が現在も調査を継続していることは適切な対応といえます。

一方で、現時点で二次被害が確認されていないことは、被害拡大の可能性が低いことを示唆しています。ランサムウェア攻撃では、攻撃者が実際にデータを持ち出していなかったり、ブラフとして脅迫していたりするケースもあります。

再発防止策と組織のセキュリティ強化

この事件を受けて、別大興産と大分市は以下のような対策を実施しています:

  1. セキュリティ機器の設定不備の解消
  2. 被害を受けたサーバ等の再構築
  3. IDおよびパスワードの変更
  4. 個人情報の取り扱いについての見直し
  5. インシデント発生時の対応手順の再確認

これらの対策は基本的な再発防止策として評価できますが、より包括的なセキュリティ強化のためには、以下のような取り組みも検討すべきでしょう:

1. 多層防御(Defense in Depth)の実装

単一のセキュリティ対策に依存せず、複数の防御層を構築することが重要です。ネットワークセキュリティ、エンドポイント保護、アクセス制御、暗号化など、異なる層での対策を組み合わせることで、一つの対策が破られても被害を最小限に抑えることができます。

2. ゼロトラストセキュリティの採用

「社内ネットワークは安全」という前提を捨て、すべてのアクセスを検証する「ゼロトラスト」の考え方が効果的です。特に、リモートワークが一般化した現在、境界防御だけでは不十分です。

3. 定期的なセキュリティ監査とペネトレーションテスト

外部の専門家による定期的なセキュリティ監査やペネトレーションテスト(模擬攻撃)を実施することで、潜在的な脆弱性を発見し、対策することができます。

4. セキュリティ意識向上トレーニング

技術的対策だけでなく、従業員のセキュリティ意識を高めることも重要です。定期的なトレーニングや模擬フィッシング訓練などを通じて、人的要因によるリスクを低減できます。

5. インシデント対応計画の整備と訓練

攻撃を完全に防ぐことは困難です。そのため、攻撃を受けた際の対応計画を事前に整備し、定期的に訓練しておくことが重要です。特に、バックアップからの復旧手順や、関係機関への報告手順などを明確にしておくべきでしょう。

まとめ:教訓と今後の展望

別大興産のランサムウェア被害事例から、私たちは以下の教訓を得ることができます:

  1. セキュリティ対策は「導入」だけでなく「適切な設定と運用」が不可欠
  2. 委託事業者を含めたセキュリティ管理の連携が重要
  3. インシデント発生後の迅速な対応と透明性のある情報開示が信頼回復につながる

最後に、この事例は「セキュリティは最も弱い環の強さに依存する」という格言を思い出させます。組織全体のセキュリティレベルを高めるためには、すべての関係者が協力して取り組むことが不可欠です。皆さんの組織では、セキュリティの「弱い環」はどこにあるでしょうか?今一度、点検してみることをお勧めします。

説明

Japan Cyber Security Inc. All Rights Reserved.