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急激に増加する証券口座乗っ取り被害の実態と対策 - 2025年上半期5,710億円の被害から学ぶセキュリティ対策

近年、証券口座を標的とした不正アクセスが深刻な社会問題となっています。2025年上半期だけで7,139件、被害総額5,710億円という驚異的な数字が金融庁から発表されました。この数字は単なる統計ではありません。個人投資家の資産が狙われ、金融市場全体の信頼性が脅かされているのです。

以前から証券口座の不正アクセスについては解説してきましたが、被害がなかなか減らないので、今一度解説していこうと思います。

フィッシング詐欺が主な攻撃手法

証券口座への不正アクセスの主な手口として、フィッシング詐欺が挙げられます。これは本物と見分けがつかない偽のログイン画面を作成し、利用者を巧妙に誘導する手法です。

攻撃者は、証券会社の公式サイトと全く同じデザインの偽サイトを作成します。そこに誘導されたユーザーがIDやパスワードを入力すると、その情報が瞬時に盗まれてしまうのです。この手口の恐ろしさは、利用者が被害に遭ったことに気付きにくい点にあります。

フィッシング詐欺の巧妙さは年々進化しており、専門家でも見破ることが困難なケースが増えています。URLの微妙な違いや、SSL証明書の偽装など、技術的な手法も高度化しているのが現状です。

しかし、フィッシング詐欺だけが問題ではありません。マルウェア感染による情報窃取も深刻な脅威となっています。メールの添付ファイルやWebサイトの閲覧を通じて、パソコンやスマートフォンにウイルスが侵入し、ログイン情報を密かに盗み取る手口も横行しています。

完全乗っ取りによる深刻な被害

証券口座が乗っ取られた場合の被害は、単純な資産の窃取にとどまりません。完全乗っ取りと呼ばれる状況では、攻撃者が登録情報を書き換えてしまうため、正当な口座所有者がアクセスできなくなってしまいます。

具体的には、メールアドレスや携帯電話番号といった本人確認に使用される情報が変更されます。こうなると、被害者は自分の口座に一切アクセスできなくなり、取引履歴の確認も不可能になってしまうのです。

さらに、メールアドレスが乗っ取られた場合、被害は証券口座だけでは済みません。そのアドレスを使って登録している他のサービス - オンラインバンキング、クレジットカード、ECサイトなど - にも不正アクセスされる可能性があります。まさに連鎖的な被害拡大が懸念されるのです。

多要素認証と即時検知システムの重要性

金融庁の指導を受け、多くの証券会社が多要素認証(MFA)の導入を急いでいます。大手証券会社をはじめとする数十社がすでに導入を完了し、不正ログインのハードルを大幅に引き上げています。

多要素認証は、従来のIDとパスワードに加えて、認証アプリや生体認証などの追加要素を組み合わせる仕組みです。これにより、たとえパスワードが漏洩しても、不正アクセスを防ぐことができます。

しかし、多要素認証だけでは完全ではありません。業界では不審な取引を即時検知・遮断するシステムの構築が急務とされています。特定銘柄への異常な売買や、通常とは異なる取引パターンをAIがリアルタイムで分析し、怪しい活動を瞬時に察知する技術が注目されています。

利便性との兼ね合いも重要な課題です。セキュリティを強化しすぎると、利用者にとって使いにくいサービスになってしまいます。適切なバランスを保ちながら、効果的な防御策を講じることが求められているのです。

個人が取るべき対策

私たちができる対策があります。まず、強固なパスワードの設定です。「password」や「123456」といった単純なパスワードは、瞬時に破られてしまいます。

また、怪しいメールやSMSには絶対に反応しないことも重要です。金融機関を装った偽のメールが日々送られてきますが、基本的に正規の金融機関がメールでパスワードの入力を求めることはありません。

そして、個人の対策ではありませんが補償制度の明確化も急務の課題です。現在、証券会社によって補償内容にばらつきがあり、利用者にとって不透明な状況が続いています。業界全体での統一ガイドライン策定が期待されています。

まとめ

サイバー攻撃に「絶対の安全」は存在しません。私たちは攻撃されることを前提として、いかに被害を最小限に抑えるかという発想に転換する必要があります。個人の資産保護と金融システムの信頼性維持のため、継続的な対策強化が不可欠なのです。

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