- 3年以上気づかれなかった不正アクセスの実態
- 警察からの通報で初めて発覚した脅威
- 公表の遅れと企業の苦悩
- 漏えいしたのはカード情報だけではない
- 再発防止への取り組みとPCI DSS準拠の重要性
- ECサイト運営者が今すぐ実施すべき対策
- 消費者として私たちができること
- まとめ

3年以上気づかれなかった不正アクセスの実態
オンラインショッピングは私たちの生活に欠かせないものとなっています。しかし、その便利さの裏側では、サイバー犯罪者たちが虎視眈々と攻撃の機会を狙っているのです。最近、ある作業服通販サイトで発覚した情報漏えい事件は、ECサイトのセキュリティ対策がいかに重要かを改めて示す出来事となりました。
この事件で特に注目すべきは、不正アクセスが2021年3月から2024年8月まで、実に3年以上もの長期間にわたって継続していたという点です。その間、12,630件ものクレジットカード情報が漏えいの危機にさらされていました。
サイトの脆弱性を突いた攻撃者は、ペイメントアプリケーションを改ざんし、顧客が入力したクレジットカード情報を密かに窃取していたのです。この手口は「フォームジャッキング」と呼ばれるもので、近年ECサイトを狙った攻撃として急増しています。
警察からの通報で初めて発覚した脅威
興味深いことに、この不正アクセスは企業自身が検知したものではありませんでした。2024年7月、神奈川県警のサイバー犯罪課から「悪性ファイルが存在する疑いがある」との通報があり、初めて問題が明るみに出たのです。
この事実は何を意味しているのでしょうか。それは、多くの企業において、自社のシステムに対する監視体制が不十分であるという現実です。
通報を受けた企業は、約1か月後にサイトを一時閉鎖し、第三者機関による本格的な調査を開始しました。そして約3か月後、調査結果が出揃った段階で、ようやく公式な発表に至ったのです。
公表の遅れと企業の苦悩
公表まで数か月を要したことについて、企業側は「不確定な情報の公開はいたずらに混乱を招く」との理由を挙げています。確かに、誤った情報や不完全な対応策の発表は、顧客の不安を増幅させかねません。
しかし、この判断は両刃の剣でもあります。情報漏えいの被害者となった顧客にとって、早期の通知は不正利用を防ぐための貴重な時間を提供します。クレジットカード会社への連絡が遅れれば、それだけ被害が拡大するリスクも高まるのです。
この事件では、調査期間中もカード会社と連携してモニタリングを継続していたとのことですが、こうした水面下での対応と情報開示のバランスは、セキュリティインシデント対応における永遠の課題といえるでしょう。
漏えいしたのはカード情報だけではない
今回の事件で注目すべきは、クレジットカード情報だけでなく、メールアドレス、パスワード、電話番号なども漏えいした可能性があるという点です。これらの情報は、二次的な攻撃の足がかりとなる可能性があります。
特に懸念されるのが、パスワードの漏えいです。多くの人が複数のサービスで同じパスワードを使い回していることから、この情報が悪用されれば、他のサービスへの不正アクセスにもつながりかねません。いわゆる「パスワードリスト攻撃」の材料となってしまうのです。
再発防止への取り組みとPCI DSS準拠の重要性
事件を受けて、企業側はPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)への準拠を表明しています。PCI DSSは、クレジットカード情報を取り扱うすべての事業者が遵守すべき国際的なセキュリティ基準です。
この基準には、ネットワークセキュリティの強化、カード会員データの保護、脆弱性管理プログラムの維持、アクセス制御の実装など、包括的なセキュリティ要件が定められています。しかし、基準への準拠は決してゴールではありません。継続的な監視と改善が不可欠なのです。
第三者機関のコンサルティングを受けながら、システムのセキュリティ対策と監視体制を強化していくとのことですが、これは本来、事件が起きる前に実施されているべきことでした。多くの企業にとって、セキュリティ投資は「コスト」と捉えられがちですが、実際には事業継続のための「保険」なのです。
ECサイト運営者が今すぐ実施すべき対策
この事件から、私たち業界関係者が学ぶべき教訓は数多くあります。ECサイトを運営する企業は、以下のような対策を緊急に見直すべきでしょう。
まず、定期的なセキュリティ診断と脆弱性スキャンの実施です。システムの脆弱性は日々新たに発見されています。過去に安全だったシステムも、時間の経過とともに危険にさらされる可能性があるのです。
次に、決済システムの分離とトークン化の検討が重要です。自社のサーバーでクレジットカード情報を保持しないことで、漏えいリスクを大幅に低減できます。最近では、決済代行サービスを利用することで、比較的容易にこうした対策を実装できるようになっています。
さらに、異常な通信やファイルの変更を検知する仕組みの導入も欠かせません。今回のように外部からの指摘で初めて気づくのでは遅すぎます。SIEM(Security Information and Event Management)などのツールを活用し、リアルタイムでの監視体制を構築すべきです。
最後に、インシデント対応計画の策定と定期的な訓練も忘れてはなりません。問題が発生してから対応を考えるのではなく、あらかじめ対応手順を定めておくことで、被害を最小限に抑えることができます。
消費者として私たちができること
この事件は、ECサイトを利用する私たち消費者にとっても他人事ではありません。自分の情報を守るために、以下のような対策を心がけましょう。
クレジットカードの利用明細を定期的にチェックすることは基本中の基本です。身に覚えのない請求があれば、すぐにカード会社に連絡してください。最近では、スマートフォンアプリで即座に明細を確認できるサービスも増えています。
また、複数のサービスで同じパスワードを使い回さないことも重要です。パスワード管理アプリを活用すれば、複雑なパスワードも安全に管理できます。少し手間はかかりますが、それだけの価値は十分にあります。
可能であれば、バーチャルカードやデビットカードの利用も検討してみてください。これらは利用限度額を設定できるため、万が一情報が漏えいした場合でも、被害を限定的にすることができます。
まとめ
今回の事件は、デジタル社会における情報セキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。企業には適切な対策と迅速な対応が、消費者には自己防衛の意識が求められています。私たち一人ひとりがこの問題に真剣に向き合うことで、より安全なオンライン環境を築いていけるはずです。
