2023年、警察庁の発表によると日本の企業を襲ったランサムウェア攻撃の件数が197件に上り、その半数以上が中小企業だったという報告があります。しかし、我々のようなサイバーセキュリティに携わる人間の肌感覚から言うと、実際は報告されていないケースも多く、実態はもっと多くの企業が被害を受けていると思われます。 サイバー犯罪者たちはなぜ中小企業を標的にしているのでしょうか?
本記事では、ランサムウェア攻撃の実態と、中小企業が取るべき対策について詳しく解説します。
ランサムウェア攻撃とは何か
あらためてランサムウェアについて解説します。
ランサムウェアは、「ransom(身代金)」と「software(ソフトウェア)」を組み合わせた言葉です。このマルウェアは、感染したコンピューターやネットワーク上のデータを暗号化し、解除と引き換えに「身代金」を要求します。
攻撃の流れは以下のようになります:
- ネットワークや様々なマルウェア、リンク等を通じて、ランサムウェアが企業のシステムに侵入
- 重要なファイルやデータベースが暗号化され、アクセス不能に
- 攻撃者が身代金を要求するメッセージを表示
- 被害企業は身代金を支払うか、データを失うかの選択を迫られる
この攻撃は、企業の業務を完全に停止させ、多大な経済的損失をもたらす可能性があります。
なぜ中小企業が狙われるのか
中小企業が標的にされる理由は主に以下の3点です:
- セキュリティ対策の不足:大企業に比べ、中小企業はセキュリティ投資が十分でない場合が多い
- IT専門家の不在:社内にセキュリティ専門家がいないため、脆弱性に気づきにくい
- 身代金の支払い可能性:大企業ほどの高額ではないが、ある程度の身代金を支払える財務状況
攻撃者にとって、中小企業は「手軽な標的」であり、かつ「確実に利益が得られる」ターゲットなのです。
実際の被害例
ある中小製造業の事例を見てみましょう:
A社(従業員50名)は、ある朝、全社のコンピューターが起動しないことに気づきました。画面には「あなたの重要なファイルは暗号化されました。48時間以内にビットコインを支払わなければ、すべてのデータを削除します」というメッセージが表示されていました。
顧客情報、設計図面、会計データなど、すべてのデータにアクセスできなくなり、業務が完全に停止。結局、A社は専門家に依頼してシステムを復旧させましたが、1週間の業務停止と復旧費用で、約2000万円の損失を被りました。
この事例からわかるように、ランサムウェア攻撃は中小企業にとって致命的な打撃となりかねません。
中小企業が取るべき対策
では、中小企業はどのようにしてランサムウェア攻撃から身を守ればよいのでしょうか。以下に、効果的な対策をいくつか紹介します:
- 定期的なバックアップ:重要なデータを定期的にバックアップし、オフラインで保管する
- ソフトウェアの更新:OSやアプリケーションを常に最新の状態に保ち、脆弱性を減らす
- 従業員教育:フィッシングメールの見分け方など、基本的なセキュリティ知識を全社員に教育する
- 多要素認証の導入:パスワードだけでなく、追加の認証方法を導入し、不正アクセスを防ぐ
- セキュリティソフトの導入:信頼できるアンチウイルスソフトを導入し、定期的にスキャンを行う
- ネットワークの分離:重要なシステムを社内ネットワークから分離し、被害の拡大を防ぐ
- インシデント対応計画の策定:攻撃を受けた際の対応手順を事前に決めておく
これらの対策は、必ずしも高額な投資を必要としません。むしろ、日々の運用と意識改革が重要です。
サイバー攻撃は、もはや「他人事」ではありません。 中小企業こそ、自社を守るためのセキュリティ対策に真剣に取り組む必要があるのです。 本記事が、その第一歩となれば幸いです。