企業における生成AI活用の現状と効果
最近の調査によると、日本企業における生成AIの活用が急速に広がっていることが明らかになりました。アイ・ティ・アールと日本情報経済社会推進協会が実施した「企業IT利活用動向調査2025」によれば、すでに45.0%の企業が生成AIを導入しており、その内訳は「全社的に利用が推奨され、幅広い業務で利用されている」企業が15.9%、「必要性の高い特定部門での利用に限定されている」企業が29.1%となっています。
さらに注目すべきは、「一部のプロジェクトやチームで試験的に利用され、効果を検証している」という企業も26.3%に達していることです。これは、今後さらに多くの企業が生成AIを本格的に導入する可能性を示しています。
生成AIを導入している企業では、その効果を実感している割合が非常に高いことも特徴的です。特に「日常業務の効率化」においては、「非常に効果が出ている」(45.2%)と「ある程度効果が出ている」(38.8%)を合わせると、実に84.0%の企業が効果を実感しています。
同様に高い効果が報告されている業務領域としては: - 分析・レポート作成:79.6% - 文章の要約・翻訳:60%以上 - 会議の効率化:60%以上 - マーケティング:60%以上
特に資料作成や情報整理といった知的作業における効率化効果は目を見張るものがあります。例えば、以前は半日かかっていた市場調査レポートの作成が、生成AIの支援により2時間程度で完了できるようになったというケースも少なくありません。
生成AI活用におけるセキュリティ上の懸念点
一方で、生成AIの活用には重大なセキュリティ上の懸念が付きまとうことも調査結果から明らかになっています。特に全社的に生成AIを利用している企業では、「社内の機密情報(個人情報含む)が生成AIに入力され、それが外部に漏えいする」という懸念が59.9%と最も高くなっています。
これは非常に現実的な懸念です。また、特定部門でのみ生成AIを利用している企業では、「生成AIが出力した偽情報や誤った内容を信じて業務に使用する」という懸念が59.1%と最も高くなっています。これはいわゆる「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象で、生成AIが事実に基づかない情報を自信を持って提示してしまうことに関連しています。
このような懸念に対処するためには、以下のような対策が効果的です:
- 企業専用の生成AI環境の構築(データ漏洩防止)
- 利用ガイドラインの整備と徹底
- 生成AIの出力内容の検証プロセスの確立
- セキュリティ意識向上のための定期的な教育
ランサムウェア被害の実態と侵入経路
同調査では、ランサムウェア攻撃による被害状況についても調査が行われており、衝撃的な結果が明らかになりました。回答企業の48.0%がランサムウェアの感染経験があると回答し、さらにその中の23.8%が「身代金を支払った」と回答しています。
これは、ほぼ2社に1社がランサムウェア被害を経験しているということであり、サイバーセキュリティの専門家として非常に憂慮すべき状況だと言えます。
ランサムウェアの侵入経路としては、以下が主要なものとして報告されています:
- メールやその添付ファイル(28.3%)
- VPNやネットワーク機器の脆弱性(20.8%)
- リモートデスクトッププロトコルの悪用(19.9%)
特にメールを通じた攻撃が最も多いという結果は、従来からの傾向と一致しています。しかし、VPNやネットワーク機器の脆弱性、リモートデスクトッププロトコルの悪用といった技術的な侵入経路も無視できない割合を占めています。
私の経験では、多くの企業がメールセキュリティには相応の投資をしている一方で、VPNやリモートアクセス環境のセキュリティ対策が不十分なケースが少なくありません。特にコロナ禍以降、急速にテレワーク環境を整備した企業では、セキュリティ面での検討が後回しになっているケースも見受けられます。
プライバシーガバナンスの取り組みと効果
調査ではプライバシーガバナンスへの取り組み状況についても調査されており、「組織全体のプライバシー保護に関する責任者を任命」している企業が37.9%と最も多く、「プライバシーガバナンスについての組織の姿勢を明文化」(32.9%)、「プライバシー保護のための組織を設置」(32.4%)が続いています。
プライバシーガバナンスに取り組んだ効果としては、以下のような変化が報告されています:
- 社員のプライバシー保護に対する意識が高まった(37.3%)
- 従業員エンゲージメントが向上した(35.0%)
- 顧客エンゲージメントが向上した(33.9%)
これらの結果から、プライバシーガバナンスへの取り組みが単なるコンプライアンス対応にとどまらず、組織文化や顧客との関係性にもポジティブな影響を与えていることがわかります。
まとめ
生成AIの活用とセキュリティリスク管理は、今後の企業IT戦略において切り離せない重要課題となっています。技術の恩恵を最大限に享受しながら、リスクを適切に管理するバランス感覚が、これからの企業には一層求められるでしょう。